昔話し

 

昔々、遠江の国に丹生直弟上(にふのあたいおとかみ)という、 とても信心深い人がおりました。 

弟上はある時仏塔を造ろうと願を立てまして、 毎日毎日作業に取り組んでおりましたが、 

なかなか思うようには捗らず、長い年月が流れてしまいました。 

心の中には常に仏塔のことが頭を悩ませ、 弟上はそれでも何とか造り上げたいと願っておりました。 

 

弟上が70歳、妻が62歳の時でございました。 

妻が妊娠し、女の子が産まれました。 

女の子は左手を握り締めたまま産まれて参りまして、 

両親が不思議に思いその手を開かせようとしましたが、 いよいよ強く握り締め一向に手を開こうとしません。 

 

「婆さんが子を産む年でもないのに産んだ子だから手首が弱いのだろう、 

前世からの何かの因縁があって、私のもとに生まれて来たのだ。」 

両親は憂いながら、毎日そのように話し合っておりました。 

慈しみ可愛がって育てておりますと、女の子は次第に成長し、 顔形も整い、とても美しくなりました。 

 

7歳の時でございます。 

女の子は握っていた手を開き、母親に見せて、 「お母様、これを見て下さい。」と云いました。 

そこには仏様の骨が二粒ありました。 

 

両親は喜びながらも不思議に思い、人々にこれを知らせますと、 

人々も喜び転げ回り、国の役人も郡の役人も皆喜び転げ回り、 

信者を集め七重の塔を建て、その中に仏骨を安置し供養を行いました。 

ところが、塔を建てた後、女の子は急に亡くなってしまいました。 

 

これは弟上の立てた願を仏様が聞き届けて下さり、

仏様自らが仏骨を運ぶために女の子として生まれて下さったのだと、 

人々は話し合いました。 

 

願を立てて叶わぬ願いはなく、正しい願いであれば必ず仏様が聞き届けて下さる、 御力をお貸し下さる、 

まさにそのような話しでございます。 


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