日本霊異記

聖徳太子様

 

聖徳太子様がいかるが(奈良県)の岡本の宮に住んでおられました頃の話しでございます。

 

太子様が御伴を連れて村を御輿に乗り見回っておりましたら、

道の傍らにむさくるしい乞食が御病気で臥せっておられたそうでございます。

太子様は御輿から降りまして、話し掛け、事情を尋ね、御自身の着ておりました衣を脱いで病人に掛けて差し上げまして、

先の道を御急ぎになられましたそうでございます。

 

そうしまして、帰りにまたその場所に参りましたら、乞食はそこにおらず、太子様の衣だけが木の枝に掛けられていたそうでございます。

お伴の方がね、「卑しい者が身に着けた穢れた衣でございます。どうかお捨て下さい。」 と仰ったのですが、

太子様はね、またその衣を身にお召しになられまして、御殿にお戻りになられたそうでございます。

 

すぐに、その乞食はお亡くなりになられまして、太子様は墓を造り、葬って差し上げたんです。

数日後、人を使いに遣りまして、その墓の様子を見に行かせますとね、

遺体が消え、歌が一首詠まれて墓の入り口に立て掛けられていたそうでございます。

 

いかるがの富の小川の絶えばこそ、わが大君の御名忘られめ

 

(いかるがの里が富み栄える限り、太子様のお名前を忘れることはありませんでしょう。)

お亡くなりになられました乞食が生き返り歌を残したんですね。

 

実はこの乞食は聖人でございました。

聖徳太子様にはそれが分かっておられたんですね。  


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