日本霊異記

上巻 第一話 雷を捉へし縁

 

昔のことでございます。天皇の側近に栖軽というものがありました。

ある時、空に雷がなりまして、その雷音を耳にしまして天皇はふと思い付き、栖軽に、

「おまえは雷を呼んで来ることができるか?」と仰せになられたのでございます。

栖軽が、「では呼んで参りましょう。」と天皇に申し上げますと、

天皇は、「では呼んで参れ。」と栖軽に仰せられました。

それで栖軽は、「雷よ、天皇がお呼びであるぞ。雷といえども、天皇のお呼びを断ることはできぬぞ。」と、

大声で叫びながら馬を走らせ、雷を探し回ったのでございます。

 

あるところで、栖軽は雷が落ちているのを見つけまして、大急ぎで神官をを呼び、輿に雷を乗せまして宮殿に運びまして、

天皇に、「雷をお迎えして参りました。」と申し上げました。

ちょうどその時、雷が光りまして、それを目の当たりにした天皇は恐れおののき、

雷に沢山の供え物を捧げまして、もとの場所に返させたのでございます。

 

その暫く後に栖軽が亡くなりまして、天皇は栖軽を葬い大きな墓を立ててまつりました。

その墓には「雷を捕えた栖軽の墓」と記されておりました。

雷はこの墓を憎みまして、墓を足蹴にし、踏みつけました。

ところが雷の足が墓の裂け目に挟まれて抜けなくなってしまったのです。

 

天皇はこれを聞き、雷を解き放って差し上げまして、栖軽の墓をこのように書き換えました。

「生きている時も死んでからも雷を捕えた栖軽の墓」と。  


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