日本霊異記

上巻 第二話 狐を妻として子を生ませし縁

 

昔、美濃の国に住んでおりました男が妻とすべき娘を探しに、馬に乗り出かけました。

ちょうど広い野で一人の美しい娘が馴れ馴れしい素振りを見せますので、

「どちらに参られるのですか?」と尋ねましたところ、「良い縁を求めての道中でございます。」とお答えになられました。

美濃国の男が、「それでは私の妻になって 下さいませんか?」と申しますと、「是非に」とおっしゃられまして、

二人は早速婚姻の儀を執り行い、一緒に住むようになりました。

 

間もなく女は懐妊し、一人の男の子が産まれました。

ところが、不思議なことに飼い犬がその女をライバル視しているんです。

折りあらば女に噛み付こうと襲い掛かり、女に子が産まれるとまけじと出産し、

女は恐ろしがって主人に小犬を打ち殺すように頼んだほどでございます。

 

翌年の2月か3月の頃のことでございます。

稲の脱穀の作業で近所の女が集まり稲米をついておりました。

女は稲つき女に出す食事の準備で踏み臼小屋に入りました。

踏み臼小屋では飼い犬が待ち構えておりました。

飼い犬は女が踏み臼小屋に入るや否や襲い掛かり、噛み付こうとしました。

女は恐ろしさに逃げ惑い、とうとう狐の姿を現してしまいました。

狐の姿で籠の上に乗りふるえておりますと、それを主人が見つけまして、

「おまえと私は子まで設けた仲ではないか。私は忘れぬぞ。毎日来い、一緒に寝よう」と申しました。

それでこの狐は毎日来ては寝て行くのでございました。

 

毎日来て寝る、「来つ寝」それが狐の由来でございます。  


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