ステパノ物語り
キリスト様の十二使徒の中に、ペテロ様と仰られます方がいらっしゃいました。
もともとは路に座り込み人に施しを乞い生活する者でございました。
彼もまた、キリスト様の復活を目撃し会話した、キリスト様復活の証人の一人でございました。
彼はキリスト様の御名により、 多くの人にバプテスマを受けさせ悔い改めさせる活動を行っておりました。
ある日、一人の足の不自由な男が人々に抱えられてやってまいりました。
彼は、ペテロ様に憐れみを乞いました。
ペテロ様はこう仰られました。
「見てみなさい、私達には金銀はありません。
ですが、私にあるものをあなたに差し上げましょう。
ナザレ人(びと)、イエス・キリストの御名によって歩きなさい。」
そうして、ペテロ様が彼の右手を取って起こしてやりますと、 彼は踊り上がって歩き出しました。
そんな状況でございましたから、人々は驚き、奇跡は街中に噂となり広まり、
毎日多くの病に苦しむものがペテロ様や他の使徒のもとを訪れ、
時には一日に数千人がペテロ様のバプテスマを受けに来るありさまでございました。
ユダヤ教の祭司や長老は策を練らなくてはなりませんでした。
キリスト様を十字架に掛けたことが誤りであったという認識を人々が持ち、エルサレムの街に暴動が起きることを恐れたからです。
それほどまでに十二使徒の噂は市民の間で囁かれておりました。
また、彼らにそのような力があることを嫉妬していたことも、その理由でございました。
祭司と長老は、ついには使徒を捕らえ、彼らを議会に掛けるため留置場に監禁しました。
ところで、ペテロ様の弟子の一人にステパノというものがおりました。
彼もまた、キリスト様の御名により、数多くの奇跡を行っておりました。
彼らに嫉妬するものは、祭司や長老だけではありませんでした。
ユダヤ教の信者達の中で、多くの頑固な者もまた、新参者のキリスト様やその使徒、さらにその弟子に至るまで奇跡を行う力があり、
多くの人々を癒している事実に嫉妬しておりましたから、
ステパノ様も頑固者の信者に扇動された律法学者により、捕らえられ、議会に突き出されました。
議会で、ステパノ様はこう仰られました。
「いと高きところに住まう神は、人の手になる家にはお住まいにはなられません。
それは預言者も語っているではないか。
「どんな家を私のために建てるのか。
わたしの憩いの場所はどこか。
天はわたしの王座、地はわたしの足台、
これらは皆、私の手になるものではないか。」と。
あなたがたは強情だ。
預言者の言葉に逆らっているではないか。
あなたがたの先祖が迫害しなかった預言者がいるだろうか?
あなたがたの先祖は救い主について預言した人を殺しました。
そして今、あなたがたも同じく殺す者となったのです。
あなたがたは律法を受けているにも関わらず、それを守らなかった。」
その時、ステパノ様は精霊に満たされ、天を見詰めておりました。
すると、神の栄光が現れ、キリスト様の御姿が見えたのです。
「ああ、天が開け、キリスト様が神の右にお立ちになられているのが見える。」
それを聞いた民衆は怒りと恐れを抱き、彼を門の外に引き摺り出し、一斉に石を投げ付けました。
それがステパノ様の最後でございました。
その民衆の中にサウロという者がおりました。
信仰の厚いユダヤ教の信者でございました。
サウロもキリスト様の信者を縛り上げ議会に突き出すことが正しい信仰であると頑なに信じておりました。
ところがある日、サウロが路を歩いておりますと、突然天から光が射し彼を照らし、彼は地に倒れました。
その時、「サウロ、サウロ、何故私を迫害するのか」と呼びかける声がしました。
彼が、「主よ、あなたはどなたですか?」と尋ねますと、精霊は応えました。
「わたしはあなたが迫害しているイエスである」と。
サウロが地面から起き上がり目をみましたが、何も見えません。
彼は三日三晩、見ることも、食べることも、飲むこともできなかったのです。
皮肉なことにサウロが視力を取り戻したのは、キリスト様の信者からバプテスマを受けたからでございます。
サウロがキリスト様について人々に熱く説くようになりましたのも、そうした出来事があったからでございます。